人が、自分の価値観=過去の生理的欲求充足の経験の蓄積に照らして、ある人を評価し、選別することに安住している時、主に青年期の性的なめざめから、一緒にすごしたいという欲求が先に生まれて、それを全面的に肯定する方向で、自らの価値体系が覆るプロセスを恋という。作家のスタンダールが表現した結晶作用。

好きな物=価値観は、本来、生理的欲求充足の経験の蓄積によって生まれるが、現在目の前に欲するものがあり、その欲するものを表象し、連想させるものが全て自分にとって好きな物として感じられるようになる現象が恋である。そして自らの精神構造における価値観を転覆し、その人を愛したいと思うようになる。成就すればよいが、グッドラックを祈るのみ。山田詠美さんの作品群が参考文献となる。

大切なことは、人は性欲を満たすためだけに生きているわけではなく、愛するということは、生活の糧を得るために労働によって社会参加することをも意味し、子供を産み育てることなど、生活全般で生きるために力をあわせることを意味している。そして恋する人と結ばれたいと思うことは自然な感情であり、相手を求める気持ちは、動機不純ではない。

弱小動物たる人が、生きるための必然性をもって協力し合うことが愛するということであり、愛し合うことで、新たな好きな物=価値観が生み出されることも意識したい。