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TOP→三葉の涙

奥寺先輩とのデート当日、三葉と瀧には入れ替わりが起こらなかった。三葉は鏡の前で長い髪を組紐で結おうとしているとき涙を流す。

はじめに

瀧と三葉との入れ替わりは約3年分ずれており、月日も曜日も異なっている。下記の表がだいたいの入れ替わりの時間軸のイメージとなる。入れ替わりによって、本来の歴史的な事実は、その都度、書き換えられてしまう。その後の出来事は、その都度、変化していくことになる。髪を切った三葉の事故死があるように、本来、髪を切らない三葉の事故死もあったに違いない。しかし、いずれにせよ、お互いに入れ替わっている時間の流れの中では、月日や曜日や歴史の書き換えは意識されない。入れ替わりから戻ると記憶が曖昧になり、その不整合を意識できない。実際に映画を9回見ても、記憶などは曖昧なものなので納得できる現象といえる。2016年12月9日発行のパンフレットvol.2には新海監督の時間軸説明が掲載されたため、公式見解はそちらをご覧頂くとして、下記研究の役割も、やや残るため、別解として残しておきます。

時間の表

2016年10月2日(日)

瀧に入った三葉は、夕方6時30分頃にスマフォのダイヤリーアプリに「そしてそして明日は奥寺先輩と東京デート」「デートが終わる頃には、ちょうど空に彗星が見えるね。明日が楽しみ どっちになっても、がんばろうね みつは」とメッセージを残す。デートの約束ができるということは、10月3日(月)は瀧が学校を休むことを前提としており、奥寺先輩も大学の講義に出ないことになる。待ち合わせは10月3日(月)の朝10時30分に四ツ谷駅前。

瀧に入った三葉は、奥寺先輩とのデートのプランを考える。瀧の不器用さを慮って、からかい半分の厳選リンク集をスマフォに残す。瀧に入った三葉は、就寝前に複雑な心境になる。奥寺先輩との距離を縮めようと一所懸命になっていたのは瀧のため。奥寺先輩と過ごす楽しさは、瀧に協力できる三葉の喜びでもあった。奥寺先輩との仲が進展すれば、そこから先は三葉の存在は必要ではなくなる。しかし自分の気持ちを真っすぐにぶつけることのできる瀧との繋がりを守りたい思いに胸が締め付けられ、目から涙が流れ落ちる。

2013年10月2日(水)

三葉に入った瀧は、一葉と四葉とともに、宮水神社の御神体へ向かう。(この日は平日。朝、四葉に起こされて、制服に着替えて居間に降りて行くが、四葉から「なんで制服着とるの」と言われる。宮水神社の神事のため、姉妹(三葉、四葉)とも学校を休む日なのだろう。)帰り道、カタワレ時、一葉から「あんた今、夢を見とるな」と言われて……。

次の瞬間、三葉は、三葉としての意識を取り戻す。御神体に口噛み酒を奉納しに行った帰り道であることに驚く。そのまま帰宅して就寝までの時間を過ごす。

2016年10月3日(月)

「あんた今、夢を見とるな」と一葉に言われたことに連続して、瀧は朝に、瀧として目覚める。その後、意識が戻り東京を捉えなおすまで少し時間がかかっていることが小説に記されている。それは時間軸の捻れによる歴史の循環書き換えに原因があるように思われる。そして目からこぼれ落ちた涙の理由が、2日の夜の三葉の思いの名残りであることには気づかない。奥寺先輩より瀧のスマフォにメッセージの着信がある。「もうすぐ着くよー 今日はよろしくね」。瀧は「デートぉ!?」と驚き、待ち合わせ場所へ急ぎ、間に合う。10月3日は平日。しかし瀧は急な目ざめと奥寺先輩からのスマフォのメッセージに気が動転している。そのため今日が3日(月)であることに、すぐには気づかない。小説ではデートの待ち合わせに何とか間に合った瀧が、「休日の午前中とはいえ、駅前はそれなりに賑わっている。」と休日であるかのように勘違いしていることが記されている。

デートは、瀧の空回りで噛み合わず。帰り際、奥寺先輩は、「君はむかし、私のことがちょっと好きだったでしょ?そして今は、別の好きな子がいるでしょう?」と言う。
奥寺先輩は、最近の瀧が自分との距離を縮めようと一所懸命に接してくれることや、端々に見える女子力の高さに好感をもっているが、今日の瀧の姿を見て、瀧の気持ちが自分に向いているものではないことを察する。瀧に入った三葉の懸命さが、瀧に向けられたものであり、瀧の心も三葉に向いていることを、瀧一人の心境に捉えて、優しく指摘してくれたことになる。このような距離感を読み取る心遣いは奥寺先輩の大きな魅力といえる。

瀧、奥寺先輩と別れた後、神宮外苑の歩道橋の上で、スマフォを見る。10月2日(日)夕方6時30分頃に入力されたメッセージ。瀧に入った三葉のメッセージを読み返す。「デートが終わる頃には、ちょうど空に彗星が見えるね。明日が楽しみ どっちになっても、がんばろうね みつは」
瀧は「何言ってんだこいつ。」とつぶやき、三葉に電話を掛ける。映画では、その時間がスマフォに表示されており、夕方5時23分頃。しかし……「電波の届かないところに……」のメッセージが流れて電話はつながらない。三葉には後日、デートが散々であったことを告げようと思うが、以降入れ替わりは起こらなかった。

2013年10月3日(木)

三葉、朝、三葉として目覚める。瀧に入れ替わっているときに約束した奥寺先輩とのデートには、結局、瀧が行くことになった。そして三葉は鏡の前で長い髪を組紐で結おうとしているとき、涙を流す。何もできずに遠くにいる自分の無力さを思う。しかし、決意する。デートの当日に私は瀧くんに会いに行く。決意して東京に行く。
でも何をしに行くのか。デートの邪魔をしに行くのか。水をさしにいくのか。時間の流れを止めに行くのか。奥寺先輩ではなく、私を見てほしいと伝えに行くのか。しかしそれは、会ってから、考えることでいい。会えっこない。でも、もし会えたら……。瀧くんは、すこしは、喜ぶかな──。とにかく、居ても立ってもいられず、東京へ行くと決める。四葉にはデートに行くという。

デートコースは自分で考えたもの。見当もつかずに雲を掴む東京行きではない。しかし会えない。探し歩いて、夕方。代々木駅ホームに入ってくる電車に制服姿の瀧を見つける。三葉は混雑している電車に乗り込む。瀧のいる場所に近づき、ようやく瀧の目の前に立つ。
緊張する三葉。「瀧くん」「覚えて、ない?」と声をかける。手に持った単語帳から視線を三葉に向けた瀧は「誰?お前」と言う。三葉がいるのは3年前の東京。三葉の目の前にいる瀧は、まだ三葉と出会う前の中学生の瀧。三葉を知る由もない。しかし三葉はそれが瀧であることを既に心で感じ取っている。しかし混雑した車輌の中で気が動転している三葉は、そこに3年の時の隔たりがあることに気づかない。お互いに会えば必ず気づくと思っていたのに、気づいてもらえない。自分が無用の第三者である事実を突きつけられたようで、会えば必ずわかると確信していたことが自分一人の勝手な思い込みに過ぎなかったと強く感じて失望の底に落ちる。三葉は四ツ谷駅で電車を降りようとしたとき、瀧から問われる。
「あんたの名前……」
三葉は髪を結ぶ組紐をほどき、瀧へ差し出し、「名前は……みつは!!」と告げる。このときから三葉の髪を結う組紐は瀧の手に渡る。そして三葉は糸守へ帰る。夜に一葉に頼んで髪を切る。

2013年10月4日(金)再演前

10月3日(月)、瀧のデート後の電話を掛ける夕闇シーンに連続して、(映画の技法として場面が切り替わり、)三葉のスマフォに着信音が鳴る。映画では、この場面に部屋の時計が映る。時計の針は夕方、5時48分頃を示している。三葉が東京の四ツ谷駅ホームから糸守の自宅まで戻るには数時間を要することから、夕方に家にいることはできず、この日が東京行きの翌日であると判断できる。故に三葉はこの日も学校を休んだものと思われる。テッシーからの電話。三葉を気遣う問い掛けに大丈夫と答えて、夜に彗星を見に行く約束をする。自販機カフェの前で待ち合わせ。サヤちんと、テッシーと。二人は三葉が髪を切ったことを知り驚く。三葉はこのとき、既に髪を結う組紐をもっていない。見晴らしの良い場所まで歩いて、三葉が空を見上げていると彗星が二つに割れる。(彗星の破片が隕石となり、三葉を含めて500人以上の住民が死亡する事態が示唆される。映画で、再び10月3日、瀧のデート後の夕闇シーンに場面が切り替わるのは、3日時点で一見電話が繋がったような視覚的な印象を与えつつ、三葉を彗星事故から救えない事態の推移を先行して示す技法と思われる。)

2013年10月4日(金)再演

朝に三葉に入って瀧が目覚める。このとき三葉の髪は既に短い。三葉は既に髪を結う組紐をもっていない。再び入れ替われたことに大泣きして四葉に恐れられ、四葉は一人で登校してしまう。一葉からは、「三葉やないな。」と言われる。そして彗星事故のことを伝えるが信じてもらえない。三葉は学校へ向かう。朝の教室でテッシーとサヤちんが、三葉の髪が短いことに驚く。そして彗星事故回避の方法を相談する。信じてもらえる。三葉に入った瀧は町長である父を説得に行く。が相手にされず、ネクタイを掴み、すごむ。父は三葉を見て、「おまえは、誰だ?」という。あきらめて町役場を後にする。三葉は学校帰りの四葉に会う。三葉は自問する「俺じゃだめなのか?」。「四葉、夕方までに婆ちゃんを連れて、町から出て」という。四葉はその言葉に驚き、「お姉ちゃん、ちょっとしっかりしてよ!」「昨日は急に東京へ行ってまうし、お姉ちゃん、このところずっと変やよ!」という。三葉に入った瀧は、テッシーに自転車を借りて御神体の山へ向かう。途中で自転車が壊れる。
その頃、御神体の岩穴の中では、瀧に入った三葉が目を覚ましている。本来二人は夢の中で入れ替わっている。一方が眠っている間に、目覚めている他方の意識にリモート接続するようなもの。故に二人同時に目を覚ますことはできない。それができたのは口噛み酒の効果であり、御神体の山にいることによるものと思われる。二人同時に目覚めることによって、初めてお互いの記憶を参照することができた。そして山道を駆け上りながら三葉に入った瀧は気が付く。自分がお守りがわりに3年間手に巻いていた組紐は、3年前の10月3日に、まだ出会う前の三葉が東京に会いに来て、手渡してくれたものだった。

山頂に着き、御神体を囲む山の外輪に立ち、声を張り上げる。そこには3年の時を隔てて、瀧に入った三葉もいる。お互いの呼び声は聞こえるが、姿は見えない。お互いに山の外輪を走って、すれ違う気配を感じ、そして立ち止まる。振り向いて歩み寄り、手を差し出し、「そこにいるのか。」と思う。二人のいる世界は同時にカタワレ時を迎える。人ならざるものに出会うかもしれない時間。向かい合う二人の姿が見え、瀧は瀧に、三葉は三葉に戻る。三葉は「瀧くんがいる。」と大粒の涙を流す。瀧に戻った瀧が「お前に、会いに来たんだ」と告げる。そして3年持っていた組紐を三葉に手渡す。「お前さあ、知りあう前に会いに来るなよ……分かるわけねえだろ」。三葉から見ると、「昨日」東京に行って瀧に手渡したばかりの組紐が手元に戻った出来事。しかしその組紐を再び手にした三葉には、もはや黒髪ショートの理由はなくなった。そして瀧は三葉に計画を告げ、実行を託す。三葉は糸守町を救いに下山する。

2016年×月×日(×)

御神体の岩穴の中で、瀧に入った三葉が目覚める。何故瀧くんがこんな所へ。山の外輪まで登り、糸守湖を見下ろし、変わり果てた風景に驚く。瀧の記憶が三葉の意識に洪水のように流れ込む。彗星が降った日、あの時私は──死んだの……?
本当は3年未来の東京に暮らしていた瀧くん。その時、私はもういなかった。力なくその場に座り込む。三葉に入った瀧が会いに来てくれるまで……。──糸守町に隕石が落ち、町がなくなった。入れ替わりが始まったのは、その3年後。3年後の瀧から見れば、本来、髪の長い三葉の事故死があるはず。そして髪を切った三葉の事故死がある。しかしムスビの力は、よりあつまって形を作り、捻れて絡まって、時には戻って、途切れ、またつながり、そして前前前世に遡って再演の奇跡を導いた。そもそも、瀧という必然の人物をめがけて、断続的な入れ替わりが始まる。しかし以後の展開は、そんな運命や未来などとして初めから決定されたものではない。瀧と三葉の恋は、二人が心を通わせて自分たちで生み出したもの。サヤちんとテッシーの協力もそうした信頼関係の上にある。そしてカタワレ時、三葉は瀧と再び出会い、入れ替わりが解消する。町長である父を説得できなければ糸守町の住民すべては決して救えない。三葉は三葉として再演を果たすためカタワレ時の終わりとともに消え去った。残された瀧は瀧として下山することになる。

2022年×月×日(×)

須賀神社入口の階段で瀧と三葉は本当に出会う。ラストシーンに三葉は再び涙を流した。

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更新記録

※本記事は「小説 君の名は。」新海誠著、「君の名は。Another Side:Earthbound」加納新太著、「君の名は。公式ビジュアルガイド」、映画「君の名は。」、RADWIMPS「君の名は。」、「君の名は。」パンフレット1、2等を理解するためのものであり、研究目的の引用を含んでいます。