1. 知識の定着

知識の定着

習い覚えた知識が、いつでも簡単に思い返せる水準に達したことをいう。その水準に達するためには、相当の努力を要することになる。問題集の問題を読んで、解答を見る。解答欄には、あわせて該当する法律の条名が明示されている。テキストの索引で該当する条名のページを探して、本文を読む。その後、問題集の解答欄の余白には、参照したテキスト名とページを朱書きしておく。このとき、問題集の問題が初見であれば、第一回目の解答作業となる。そして参照するテキストの内容も初見であれば、第一回目の参照作業となる。ところで、これが二回目の解答である場合は、どうだろうか。問題文を読むと一回目の解答経験が想起される。テキストに関連部分があることにも思い至ることになる。つまり目の前の問題文を引き金として、過去の解答経験を想起することが二回目の解答作業ということになる。こうして脳内には当該問題の解答作業の記憶と、相い関連するテキストを参照するという記憶が蘇える。問題に直面し、他の知識を参照して解決するという過程は、知識を網目のように結び付けて脳内を耕す作業であり、その反復が知識定着のカギになっている。その時、解答できたことがうれしいとか、達成の進捗によって安心感を得るという感覚を得ながら作業を進めることができれば、この作業自体が、やりがいをもたらすことになる。つまり学習が進むとか理解ができるというのは、脳内に参照可能な解答経験の記憶を作る作業に他ならない。その作業とは、現実の法体系や学問の体系を脳内に模写する作業ということになる。 そもそも問題文とは、現実の社会で起こる事象を文字化(抽象化)したものと考えることもできるから、問題を解くという行為は、現実社会の生きた事例に遭遇し、解決するという行為を抽象的に体験することと捉えることもできる。実際には現実社会の生きた事例に遭遇すると、さまざまな可能性を評価し、判断して、正しい解決策を実践しなければならない。その生きた経験の方が数倍も実体験として記憶に残ることになる。そのことから考えてみると、問題集の問題を解くという作業は、例えるならインフルエンザの症状を軽く抑えるために、あらかじめ予防接種を受けるような意味かもしれない。問題集を使って、効率的に全範囲の問題を解くことで、全方位的な予防接種を受けておけるならば、社会で働くうえで、極めて有効な対策といえるのではないだろうか。