1. ハローワールド

ハローワールド20190930

堀川五条の図

2019年9月20日に上映を開始した98分間の映画。伊藤 智彦監督、野﨑 まど脚本。一行 瑠璃(いちぎょう るり)と堅書 直美(かたがき なおみ)の恋の過程が丁寧に描かれていて、心動かされる。現代は、SNSで幅広く繋がりをもつ社会であるがゆえに、個人の思いがついたてなく周囲に拡散してしまうという不安を感じざるを得ない。SNSを駆使せず、近づき難く読書好きな一行 瑠璃というヒロインは、そうした不安の対局に位置する存在として描かれたのかもしれない。

実際のところはわからないが、直美と瑠璃が、お互いにかけがえのない存在に転化する理由は、何か決定的に必然的な導きの糸を原因とするものではなくて、日常の関わりの中に、心惹かれあうことが示される。そして一旦、それぞれが心に決めた存在となったとき、その後の人生をかけてお互いを守る力が生み出される。

ナオミに助けられたルリ。それと引き換えに何がリセットされたのだろうか。ここから先は想像の域となるが、恐らくは大規模エラーの修復過程のダイヴ中にナオミの意識も失われるのだろうか。ナオミを救うために現実世界のシステム管理者の尽力でリセットされる直前の世界にカラスが派遣され……そして堅書直美に最後まで終わらせない行動を取らせるという新たな書き換えを加える。それが直美を助けようとするナオミの意識を消去させない再演を実現する。同時に、リセットされたはずの世界に直美と瑠璃が生き残るという新たな書き換えが成立する。その直前。涙を流すナオミの真摯な心の転送に成功することで、現在進行中の世界にもようやく二人が存在できることになったのだろう。それは逆転ではなく、両世界が共に祝福されるべき始まりを迎えた瞬間と捉えれば良いように感じた。そして気持ちよく映画館を後にすることができた。