1. 鍋に学べ

鍋に学べ

圧力なべの図

結婚を機に鍋を購入する。それを永年に亘って使い続ける。10年保証30年保証など、製造元によっては長期の保守体制を保っており、部品の供給が続く限り修理を受け付ける姿勢を見せている。それで鍋事業として成り立つのだろうか。一般的な鍋会社は、鍋製造工場の建設や鍋加工機械に多額の設備投資をして、鍋製品を大量に製造する。鍋製品一個あたりに設備投資の費用を配賦することになるため、より多くの鍋製品を製造する方が単価は安くなる。単価が安い製品を市場に送り出すことで価格競争力を保つことができる。そういうビジネスモデルを成立させるには、一定期間が過ぎると傷む鍋として設計し、適度に買い替えを促さなければならない。常に新しい鍋製品を販売し続ける循環を意識する必要がある。ところが、品質の良い鍋製品の場合は、そうはいかない。一定量の高品質な鍋製品が供給されると、あとは傷まない。保守だけになる。すると鍋製造工場の操業は停止するのではないか。鍋修繕業だけなら、必要な修繕費や人件費をもらえば良いのだが、一方で鍋製造工場は事業が成り立たなくなるのではないだろうか。しかし鍋修繕業は事業としての強みを発揮する。結婚してから長期間使い続けたものは他に変えがたい価値を持つ。時間の価値が付加される。それをいつまでも修理してもらえることの価値は大きい。唯一無二の思い出の品を使い続ける手助けをすることに価値がある。そこに競争相手はいない。ゆえに事業規模を拡大せずに、鍋製品の種類を絞って、しかも大量生産を行わないことにすればどうか。事業継続可能な範囲で生産量を持続させつつ、鍋修繕事業と鍋製造事業の両輪体制とすれば、すばらしいと思う。そのとき例えば圧力鍋のおもり一つでも、欠品がないように維持して頂けるとありがたい。それこそ必要な価格を請求すれば良いと思われる。こうした期待は鍋業界だけに向けられたものではない。