1. 多くと大く

多くと大く

多くとは量が多いことを言う。大きいことは、「大(おお)く」とは言わないのだろうか。多くを語らないとは、たくさんのことを語らないこと。多いと大きいは、何が違うのか?「多い・少ない」は数えられる量を評価している。「大きい・小さい」は、例えば「大人と子供」のように数の上では同じ一人だが、その体重や身長が異なることでその大きさが異なることを表している。つまり数値化にそぐわないものの量の違いを「大きい・小さい」で表している。ただしお父さんは子供よりも体重計や身長計の目盛の振れ幅が多いのであってその違いを数値で捉えるときには、やはり「多い・少ない」という。つまり両者の使い分けは経験的、主観的に選択されている。例えば「大いに頑張ってくれたまえ」という言葉がある。これは「大きに」頑張ってくれ。「大きく」頑張ってくれという意味を表している。つまり「頑張り方」というものが数値化して捉えにくい概念なので「大いに」になっている。ならば「多くを語らない」についても、語る量だけでは語る本質の大きさを表せないことからすれば、「大くを語らない」でもよいに違いない。つまり言葉とは、あらかじめ使用方法が決められているものではなくて、話者が物事をどう捉えているかを表す手段である。