1. 失敗

失敗

うまくいかないことを失敗という。例えば中庭にタイルを縦15列、横15列に敷き詰めているとする。タイルの上を歩いて手前から向こう側まで進む方法は幾通りも存在する。いま2列目のタイルの上を歩いて向こう側まで進むことができた。これを成功という。しかし1列目ではだめなのだろうか。そして試しに3列目を進んでみると5枚目のタイルを踏み割ってしまい、下に穴があることが判った。これを失敗という。

これらはいずれも中庭の全体像を理解するための試みとして同等の価値を持っている。失敗とは無価値ではない。前提となる目的に照らして、その目的に沿わない結果を得ることをいう。

人間はその成長過程において、よりよく生きようとしながらも数多くの失敗を繰り返す。そして自己の責任においてその失敗を乗り越える経験を重ねることになる。しかし古い精神支配の方法では、失敗を排除の理由とする。失敗を恐れるように仕向けて、自由な精神活動を制約する圧力も同時に加えられている。そして成長過程で負った心の傷はなかなか癒せない。失敗しても良いことを理解する的確な処方箋は、漫画「君たちはどう生きるか」ではないだろうか。湯島天神下の石段の思い出は、それがこれからの長い道のりの中で何度も背中を押してくれるものだと教えてくれる。