1. 間引き

間引き

間引きとは、経営者が将来の後継者を定めて、その後継の妨げになるであろう周辺の人物をあらかじめ排除しておく策をいう。野菜の栽培においては、ある時点での育ちの良さを見極めて、その後の養分を集中させる目的で行われる。その「養分」とは何だろうか。それを権力の集中や名誉と捉えており、その権力の集中や名誉が「仕事」に表象されると考える場合、例えば一子相伝的に仕事を受け継がせて、その仕事を行うことに対して権力や名誉が付与されるというふうに考えて、後継者には、基幹となる業務の経験を積ませるが間引き者には、窓際の業務に従事させるということが起こるのかもしれない。

そのとき、間引き者は、仕事の捉え方を意識する。仕事は自己実現の目的物であるのか。生活のための手段なのか。仕事は自分のものなのか。自分は組織の中でどういう役割を与えられているものなのか。そうして組織の中に自分のひとつの役割があることが認識できれば、プラスの方向に行動を振り向けて行くことができるのではないだろうか。

仕事が自己実現の目的物であると考えることは、きっと正しいことかもしれない。しかし同時にワーク・ライフ・バランスという考え方とあわせて、一時代を生きる自身の役割の流動性、暫定性、一時性をも理解しながら、全体の中での継承を常に意識することが組織の継続性には必要とされることだろう。一世代だけの経営者として、自己の引退とともに活動が終了するのであれば、仕事が自己実現の目的物であるだけで良いのかもしれない。

ひとつ面白い事例があった。歯医者は名医が良い。近所でも評判の名医を探して掛かりつけ医としたい。ところが個人経営の歯医者は、歳を取って目が見えなくなり、衰えて腕が鈍ってくる。複数の歯科医が常駐する規模の大きな歯医者の方が実は継続性が保たれる安心感がある。患者から見ると組織の優位性を発見できる。ところが医師は、個人開業の方が自分のやり良いように仕事ができて良いのかもしれない。しかし事例の共有、知恵の集積、経験の継承などを考えれば、組織の価値もあるに違いない。

こうして社会性と個性とのはざまで、悩みながら最適解を探して生きて行くのが人というものだろう。間引きも捨てたものではない。